ボードゲームの拡張に関して(感動した拡張三選)
■ボードゲームの「拡張」
今となっては、当たり前となりつつあるボードゲームの拡張。
中には新作でありながら、同時に拡張も発売されるケースも見受けられます。
品切れにもなりやすく、コレクターズアイテム的な立ち位置も感じます。
そして、一口に拡張と言っても様々です。
今回は、ボードゲームの拡張はどのような種類があるか、特徴はどうかを考えた上で、私がプレイして感動した拡張三選を紹介いたします。
■拡張の種類と特徴
①既存の要素への種類の追加
例:アグリコラ→各種デッキ拡張、マルコポーロの旅路→キャラクター追加拡張、コンコルディア→各種マップ、ドミニオン→各種拡張、サイズ→キャラクター追加拡張
特徴:元々のゲームのプレイ感をある程度維持したまま、新鮮にプレイできる。比較的安価である場合が多い。ミニ拡張として出される大多数はこれに該当する。購入する前からある程度期待値通りの面白さが担保されており、安定していると言える。
②新たなシステムを追加
例:バラージ→私有建物・外注、テラフォーミングマーズ→コロニーズ、オーディンの祝祭→ノース人アクションボード
特徴:単純に基本にプラスして複雑性を持たせるものが多い(→よりゲームの重たさが増す)。既存のシステムと有機的にかみ合っていないと取ってつけたような印象になりやすい。基本のバランスが完成されていればいるほど、その拡張のありなしに好みが出やすく、拡張なしの方が好きという意見も出やすい。
③シナリオモードを搭載する拡張
例:サイズ -大鎌戦役-→フェンリス襲来、イッツアワンダフルワールド→戦争か平和か
特徴:同じコンポーネントを使った別の遊びのような感覚。同じメンツで集まれる環境が必要になったりする。個人的にプレイ経験に乏しい。
④プレイ人数を増やす拡張
例:アグリコラR→5~6人拡張、バラージ→5人拡張、カタン→5~6人拡張
特徴:当たり前だが、プレイするには該当の人数が必要になるので卓を立てるハードルが高い。集まる人数が決まっているコミュニティなどでは良いだろうが、稼働率は特に低めになりがち。かなりニッチな需要に応える拡張と言える。
■私が感動した拡張三選
①テラフォーミング・マーズ拡張 プレリュード
一つ目は、「テラフォーミング・マーズ拡張 プレリュード」です。
この拡張は、ゲームの開始時にプレイヤーを強化する初期能力を付与するというものです。
上記の分類で言うと「新たなシステムを追加」に該当するかと思います。
しかし、この拡張では「新たなシステムを追加」していながらゲームを複雑にすることはなく、プレイを爽快に、さらにゲーム時間を短縮することを実現しています。
テラフォーミング・マーズには拡大再生産要素があるのですが、その拡大再生産の調子が出るまでのアイドリングのような下準備の時間を劇的に短縮する拡張です。
一般的に、よりゲームを複雑(長時間化)にするのがボードゲームの拡張である、という固定概念を壊してくれました。
拡張というよりも、基本をアップグレードしてくれる作品、という表現がしっくりきます。
テラフォーミング・マーズの各種拡張はプレイヤー各々で好みがハッキリと分かれがちで、人により「入れたくない拡張」があったりするのですが、「プレリュード」は満場一致で是非入れようとなるファンに愛される名拡張です。
②コンコルディア拡張 バレアリカ・キュプロス(魚市場拡張)
二つ目は、「コンコルディア拡張 バレアリカ・キュプロス(魚市場拡張)」です。
マップと、新たなシステムである「魚市場」が同封された拡張です。
この「魚市場」は通常のアクションの前に魚市場アクションを実行できる選択肢を付与するものです。その魚市場アクションスペースは作者ゲルツお得意の「ロンデルシステム」になっています。
プレイに自由度とロンデルシステム特有の先読みを必要とする複雑性を与え、うまくプレイできた時には通常よりも満足感を与えてくれます。
デザイナー自身の代名詞とも言えるシステムを名作「コンコルディア」に落とし込む手腕には脱帽です。
また、基本セットに同封されているものの、得点計算時まで使用しなかった(プレイ中は不要だった)木の丸駒をこの魚市場ロンデルで活かすというアイディアもなんとも愛らしく思えます。
こちらの拡張を経験した後でも、基本セットもこれまでと同様に楽しむことができるのも良い点です。
魚市場で活躍する得点マーカー
③アグリコラ 拡張セット「泥沼からの出発」
最後は、アグリコラ 拡張セット「泥沼からの出発」です。
この拡張では、
・部屋を暖める「燃料」という資源の追加
・農場に初期から泥沼・森タイルを追加
・全プレイヤーで共有し、各ラウンド事1回目は無料で、2回目は2飯で使えるワーカーなし特別なアクション
・新動物「馬」、新たな大進歩の追加
と、他の作品の拡張では類を見ないほどにシステムの追加・基本のルールが変更されています。そして、これらが旧版アグリコラの不満点への回答となっているのです。
・部屋を暖める「燃料」という資源の追加
→最速増築・増員プレーが強力すぎる不満
・農場に初期から泥沼・森タイルを追加
→ある程度慣れると毎回同じような最終的には農業の形になる不満
→農場へのタイル設置のパズル要素がほぼ機能していなかった不満
・全プレイヤーで共有し、各ラウンド事1回目は無料で、2回目は2飯で使えるワーカーなし特別なアクション
→他プレイヤー(特に下家)のスタートプレイヤーアクションによる手番変更で影響を受けすぎる不満
・新動物「馬」、新たな大進歩の追加
→手札次第では点数の上限が頭打ちになっていた不満
一つ一つの不満点を丁寧に解消していく優等生的ともいえる丁寧な回答ですが、それらを組み合わせて元々のアグリコラの魅力も残しつつ「バランスよく新鮮で面白い!」と思わせるウヴェローゼンベルクというデザイナーは天才だと言わざるを得ないです。
私は泥沼を始めてプレイしたのは、アグリコラを200回以上プレイした後だったのですが、「アグリコラをフォローする拡張」としてあまりにも完璧すぎる拡張に、こんなものを作れるウヴェローゼンベルクが恐ろしくなりました。
そして、こちらもコンコルディアの魚市場と同じく、経験した後でも拡張抜き基本セットだけでもまた別の味として楽しめるのも嬉しい点です。
あまり考えないで畑タイルを置くと後々苦しくなります……
■おわりに
拡張をプレイするためには、まず一旦基本のみでプレイする方が大多数かと思いますので、様々なタイトルが溢れかえる昨今なかなかプレイの機会に恵まれないこともあります。ですが、本記事で紹介させてもらった三作のように、基本を知っているからこそ、そこからさらにゲームを面白くするデザイナーの手腕を味わえる作品に出合えた時はそのすごさに感動します。
これからも素晴らしい拡張をプレイできることを楽しみにしています。