「インスト」という行為の狂気
■「ウイングスパン」のチュートリアル
先日、好きなカードゲーム配信者が「ウイングスパン」のデジタル版の初見プレイ放送をしていました。
初見プレイなので、もちろんゲーム内のルール説明(チュートリアル)から始まります。
途中までは「面白そう」「やってみたい」などの視聴者のコメントが並びましたが、しばらくすると次のようなネガティブな発言が目立つようになりました。
「長い」「複雑すぎる」「理解できない」「もう思考を放棄している」「もうやめよう」
普段からボードゲームの配信をしている配信者ではないので、視聴者もボードゲームに触れたことがない人が多いと思います。しかし、ほぼ全員がカードゲームプレイヤーであると推測されます。
こういったルールが理解できないというコメントの流れになったのは、ゲーム配信は"ながら見"前提で集中して見ている人が少ないと言った視聴環境も要因の一つかと思います。
ただ、類似ゲームジャンルのカードゲームプレイヤーであってもボードゲームの中でもそれほどルールが複雑ではない「ウイングスパン」のルール説明をすんなりと受け入れられないという事実から、普段から思っているボードゲームに付き物の「インスト問題」について改めて考えるきっかけになりました。
ボードゲームに慣れている方ならもうインストは「当たり前の行為」かもしれませんが、2時間遊ぶゲームの説明に30分かけることのは、ボードゲームをやらない人からすれば驚嘆に値することです。
いかにボードゲームのインストという行為がエクストリームでクレイジーか、今回記事としてまとめて、すべてのルールを解読してくださる人、インストしてくださる方への敬意を表したいと思います。
■「インスト」の怖さ
①説明側の説明能力への依存がものすごく大きい
インストをする際は、
自分の中にルールを落とし込む→受け手が理解しやすい説明順を組み立てる→言語化する
と言ったプロセスが必要になります。
特に「ルールを知らない人の目線になって説明できる能力」が求められます。
これはなかなかハードルが高いことです。
また、受け手の方の集中力も長くは持たないので、「面白さを伝えられるか(興味も持たせられるか)」も重要なポイントになってきます。
②説明者が正しくルールを理解しているとは限らない
これは全員が初見だとかなりの頻度で起きます。
「ルールブックからルールを読み取る」という行為の難易度はルールブックの出来にも寄りますが、ものすごい能力と労力を要します。
ボードゲームは大抵が外国産ですので、翻訳の精度の問題も出てきますし、日本語版がない場合はプレイヤー自ら訳すことも珍しくありません。原語から遠ざかるほどに正しいルールの理解のためのリスクも増えていきます。
ゲームが終わった際、違和感を感じた箇所のルールを読み直してみると実は正しいルールと違っていた、なんてことはしょっちゅうです。
それでもゲームが成立していれば良いのですが、正しいルールで遊ばずにそのゲームの評価を下すのはそのゲームに対しては少々不誠実かもしれません。
③全部説明できてるとは限らない(重ゲーだと全部説明しきることのが珍しいと思える)
①と近いところもありますが、重ゲーですとルール量が半端じゃないです。また、細かい処理順番や効果が重なった際の処理の仕方など疑問は無限に湧いてきます。それを全部説明しきるのは不可能です。
例えば、アグリコラ旧版EIKドラフトで"本気で勝ち負けを競い合う"ならば厳密に言うと職業・小進歩のカードプールを全部説明する必要が出てきます。そんなの無理です。
最初に計画をしっかり立てるゲームだと知らない情報があると致命的になったりもするので、プレイ中知らないルールが出てくるとゲームやインスト者への不満感にも繋がります。
ゲームのルールは繊細で肝の部分のルールはちょっと解釈を間違えるだけプレイ感が大きく変わる可能性があります。インタラクションが強いゲームだとルールが理解できていない人だけでなく全体のゲームが壊れる可能性もあります。
④同じ説明でも受け手次第で解釈が変わる
例えば、4人ゲーの場合、1人がインストして残りは初見プレイ、という状況はよくあります。この時、3人は同じ説明を聞いているはずなのでルールの理解に差が出てきます。これは今までのゲーム経験が違うので当然です(類似メカニクスや類似処理の経験があると理解が早いですが、逆にそれに引っ張られて勘違いする可能性もあります。)
他の2人が理解できてる風なのに自分だけわかってなくて言い出せないで置いていかれてしまう、なんて状況も起きます。
受け手がちゃんと理解できてるか知ることができないので、インストした人は他の人がちゃんと理解できてるか、自分のプレーそっちのけでその人のプレーが気が気でないこともしばしばです。
⑤時間がかかる
当然、みんな遊べる時間は限られてます。
重ゲーのインストですと30分以上かかることもしばしばです。限られた時間の中でのこの時間は、必要な時間ではありますができればプレイ時間にあてたいという気持ちもあります。
■怖さの疑似体験
先日、マラカイボのインストで失敗した話をnoteで公開され、大きな反響を得ていた方がいました。
直接リンクを貼るのは憚られるので「マラカイボで失敗した話①」で検索して是非読んでみてください。
インストの怖さを疑似体験でき教訓を得ることができますし、最終的にはそれを乗り越える素晴らしい記事です。(ルールブック読んで「これでバッチリ!」だと思ったのにいざインストすると受け手からの質問に全然答えられない、はあるあるですよね……。)
■受け手の心構え
上記の通り、ルール読み・インストは非常にリスクが高く求められる能力が高い難しい行為です。
普段楽しくアグリコラができているのは、難解と名高い旧版の分厚いルールブックを解読した名も知らぬ人々がいて、そこから派生する形でインストが伝わっていき、僕の元にルールが届いたからなのです(僕はアグリコラのルールブックを読んだことがありません)
「インスト」という行為のクレイジーさは、ボードゲームの裾野をもっと広げる、と考えた場合いつかどうにかしなければならない問題の一つだと個人的には思います。
インストを受ける側は、インストするという行為の難しさを頭に入れ、協力的に説明を聞き理解に努めるのが楽しく遊ぶためには必要かなと思います。また、プレイ中にインスト漏れや間違いがあった場合も寛大に受け入れる心構えも持ちたいものです。
また、個人的な意見として「インスト」という行為の狂気の濃度を薄めるためにも、同じタイトルをリプレイしたい、という気持ちもあります。
もちろん、インストは悪い面ばかりではなく、自分で説明したゲームを楽しんでもらえた時なんとも言えない喜びがあります。
最後に改めて、すべてのルールを解読してくださる人、インストしてくださる方へ感謝の意を表します。