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【雑記】「花束みたいな恋をした」を観て「ディスタンクシオン」を連想した話【ネタバレ有】

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●タイトル:花束みたいな恋をした

●監督:土井裕泰

●脚本:坂元裕二

●公開:2021年

 

先日、「花束みたいな恋をした」を映画館で鑑賞しました。

予想以上に良く、自分でもビックリするくらいショックを受けてしまったので自分の気持ちの整理のためにも記事にします。

完全にボードゲームと関係ない雑記となりますが、「趣味が一致する人間関係」というテーマにおいては遠からずという面はあるかもしれません。

ネタバレ有で書きますので、気にされる方は是非劇場へどうぞ。(一見の価値がある作品であることは間違いないと思います。)

 

■100de名著「ディスタンクシオン

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NHK「100de名著」という番組が放送されています。

歴史に名を遺す名著を月ごとに25分番組×4回にわたって解説する番組です。

難解な内容の作品も解説者と受け手の伊集院光氏によってわかりやすく説明され、今までにない価値観に出会えることもあります。

その番組で12月の名著として選出されたのが、社会学の名著、ブルデューディスタンクシオンです。

ディスタンクシオンでは我々が自分の自由意思で取捨選択していると考えがちな「趣味」がそうではなく、その人の環境や社会的地位によって規定されているのだと論じられています。

「このアーティストの音楽に出会った瞬間稲妻が落ちたような衝撃を受けた!」と言った運命的な出会いは否定され、自らの自由意思によってそう感じるのではなく、そう感じるような社会的環境・育ちによって生まれた出会いだというのです。

 

■麦と絹の「運命的な趣味の一致」

「花束みたいな恋をした」では、お互いの音楽、文学、映像作品、ファッションなどの趣味の一致が運命的な出会いであるように描かれます。

たまたまであった二人が、共通の趣味を通じて心を通わせて行く、とても美しい場面です。

二人は、大学を卒業してもすぐ定職に就くことはなく、フリーターとして生きることを選びます。

二人ともに共通するのは実家が裕福である、ということです。

絹の両親はどちらも広告代理店勤務で、実家はかなりの豪邸に見えます。

麦の親は大学を卒業しフリーターとなった息子に5万円を仕送りしています。

好みの博物館や舞台を見に行き、好きな文学を買い、上質なこだわりのコーヒーを楽しめるのも、この両親の支援があってこそだったのです。

ディスタンクシオン」的にこの二人を見ると、そもそも趣味がこんなにも一致したのは、そういったサブカルを良い感じるような社会的環境・育ちによって生まれたからなのです。

そして、この二人の文化的で仲睦まじいフリーター生活はお互いの両親の説得・支援の打ち切りによって幕を閉じます。

文化によって深く結びついた二人が、両親の説得や、支援が打ち切りになったことにより生活水準が保つことが難しくなり定職に就くことになります。

その結果として麦は、旧時代的な「仕事は責任」といった思想に染まり、今まで好きだった文化に対する感性が死んでしまいます。家でも仕事、目に付く本は自己啓発本、楽しみにしていた「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」も途中で辞めてしまいます。

ゲーマーとして、この「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」を途中で辞めてしまうという描写はとても納得感がありました。ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」は過去のゲームでも一番と言っていいほど人の好奇心を刺激するゲームです。ただ山を登って、その先にある景色が見たい、といった原始的な好奇心をゲームで刺激される大傑作です。その「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」すら麦は楽しめなくなってしまうのです。

一方絹の方は定職についてもそういった文化に対する感性は変わっておらず、そこから二人の関係にズレが生じていきます。

 

■穏やかな別れへ向かう

その後、二人は各々に「もう別れる」ことを決意します。

冷え切った関係になった二人ですが、数か月ぶりに肉体関係を結びます。

同じく坂元裕二脚本のスペシャルドラマ「最高の離婚Special 2014」でも全く同様の場面が描かれました。セックスレスの夫婦が、離婚を決意したのちに肉体関係を持つのです。

ここから坂元裕二氏は「肉体関係を持てるほどお互いに嫌悪感がないのに、その先にある穏やかな別れ」描きたいという一貫性を感じました。

お互い憎しみ合うような人間関係の終わりではなく、思いやりや僅かな愛情を持っているけどそれでも一緒にこれ以上いられないと言った穏やかな別れです。

 

■恋愛の終わりに訪れる選択肢「結婚」か「別れ」

そして二人は意を決して、いよいよ関係の終わらせようとかつて愛を育んだファミレスへと向かいます。

お互い別れるつもりで話をしましたが、麦は会話の中で「恋愛としては終わりでも、結婚して、家族として上手くやっていく関係もあるのではないか」と方向転換し、絹の決心も揺らいでいきます。

これにはかなりの面白みを感じました。

「結婚」と「別れ」という正反対のような二つですが、この二人が直面している岐路にはこの二つが紙一重で並んでいるのです。

「結婚」というものが如何に社会的なもので、恋愛感情と離れたところにある(とこの二人がこの時認識しているか)と思いました。

二人は結局、「別れ」の選択肢を選ぶのですが、その後憑き物が取れたように関係性は改善します。個人的にはここで「そんなに仲良いならば関係を続けてくれよ!」と叫びたくなりますが、二人にはそれ以上にもう修復不可能な分断があったのだと痛感させられ、さらに胸が痛くなります。

 

■静かな物語

「趣味の一致」という"運命的な出会い"をした二人が、社会に出る際に価値観にずれが生じて別れる話です。

特に大きな出来事は起きない話ですが、ここまで面白い物語になるのは脚本が素晴らしいからだと思います。

観終わった後も、この二人が幸せになる選択肢はなかったのか、と考えが止まらないです。

麦がもう少し器用に仕事に向き合っていれば……と思ってしまいます。

興味がある方は是非ご覧ください。

 

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